改正労働施策総合推進法が10月1日に施行された。顧客等による著しい迷惑行為、いわゆるカスタマーハラスメントへの対応が、すべての事業主の義務となる。厚生労働省が告示した指針は、方針の明確化から相談窓口の設置まで、5つの柱で措置を定めている。業種と規模による例外はない。
背景
根拠となるのは、2025年6月11日に公布された法律である(令和7年法律第63号)。これに基づき、厚生労働省は「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」を告示した(令和8年厚生労働省告示第51号)。同時に、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止指針も告示されている(同告示第52号)。
指針は、カスタマーハラスメントを3つの要素で定めている。顧客等の言動であること、労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものであること、労働者の就業環境が害されることである。3つすべてを満たすものが対象となる。業務の性質を踏まえて判断されるため、厳しい要望や強い口調そのものが一律に該当するわけではない。
指針は、事業主が講ずべき措置を5つの柱で定めている。方針の明確化と周知啓発、相談に応じ適切に対応するための体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、著しく悪質なケースへの防止措置、そしてプライバシーの保護と不利益な取扱いの禁止である。厚生労働省のリーフレットは、この5つを10項目に分けて示している。中小企業に対する猶予期間や軽減措置は設けられていない。
事業者への影響
EC事業者と店舗運営者にとって、論点は3つある。
第一に、対象となる接点の広さである。カスハラは対面のやりとりに限らない。電話、メール、チャット、SNSでの言動も、3つの要素を満たせば対象になる。問い合わせ窓口を複数持つ事業者は、どの経路の記録がどこに残るかを先に整理しておきたい。記録が残っていない経路では、事実関係の迅速な確認という措置が成り立たない。
第二に、相談窓口である。指針は窓口の設置と、担当者が適切に対応できる体制の両方を求めている。窓口を作っただけでは足りない。少人数の事業者では、経営者が窓口を兼ねる形になる。その場合も、誰にどう相談するかを文書で示しておく必要がある。
第三に、現場の運用である。カスタマーサポートを1人に任せている、店舗のクレーム対応を店長が単独で受けている、といった体制は、指針が求める対応から遠い。どの段階で上位者に引き継ぐのか、その先に誰がいるのかを決めておきたい。
今日から着手できる作業は次の通りである。
- カスハラに対する事業主の方針を文書にし、従業員に周知する
- 相談窓口の担当者と連絡手段を決め、掲示または社内通知で知らせる
- 悪質なケースの判断基準と、警察・弁護士への連絡手順を決めておく
義務化は、事業者に新しい能力を求めるものではない。すでに現場が受けている負荷を、会社の体制として引き受ける作業である。方針を文書にすることは、現場が断る根拠を持つことを意味する。
今後の見通し
措置が講じられていない場合の扱いについて、本記事では条文の確認まで行っていない。行政による助言・指導・勧告の対象となる可能性があるが、詳細は同法の条文で確認する必要がある。
厚生労働省は、簡易版と詳細版のリーフレットを公開している。自社の体制を点検する際は、詳細版の記載に沿って項目ごとに確認するのが早い。指針の運用については、今後、行政の解釈や好事例の整理が示される可能性がある。
出典
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
- 厚生労働省 カスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号):https://www.mhlw.go.jp/content/001662625.pdf
- 厚生労働省 リーフレット(簡易版):https://www.mhlw.go.jp/content/001662629.pdf
- 厚生労働省 リーフレット(詳細版):https://www.mhlw.go.jp/content/001662630.pdf
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)条文・理由:https://www.mhlw.go.jp/content/001502753.pdf
- ネットショップ担当者フォーラム「カスハラ対策、していますか?」(2026年9月29日):https://netshop.impress.co.jp/n/2026/09/29/16800




