「AI経由はCVRが6割高い」。米アドビの分析としてそう報じたのは、本紙自身である。数字だけを見れば、対応を急ぐべき理由になる。
では、実際の店舗ではどう見えているのか。手元にあるデータで確かめてみることにした。
64の参照元に、AIは1つもなかった
調べたのは、本紙の運営元が手がけるD2Cブランドのオンラインストアである。Shopifyで運営しており、直近90日間のセッションは21,311件。参照元の内訳を、上位から末端まで残らず出した。
記録されていた参照元は64種類。Instagramが9,890件で全体の約46%、参照元なし(direct)が6,472件、Google検索が3,546件と続く。末端にはDuckDuckGoやEcosiaが1セッション単位で並んでいた。海外の小さな検索エンジンまで、1件から拾えている粒度である。
その64種類のなかに、ChatGPTもPerplexityもGeminiも、1件も現れなかった。
「ゼロ」ではなく「見えていない」
ここで「うちにはAI経由の流入がない」と結論するのは早い。より正確には、標準の参照元レポートに、AI経由という項目が存在しない、というだけである。
生成AIの回答から外部サイトへ遷移する際、参照元情報が付かない、あるいは削られるケースがある。その場合、流入は「参照元なし」として記録される。ブックマークや直接入力と同じ箱に入る。
そして、その箱の数字が興味深い。参照元なしは6,472セッションで全体の約3割。購入完了率は0.99%と、Google検索経由の0.45%の2倍以上あった。この店舗で最も「濃い」流入経路である。
もちろん、この箱の中身は再訪問者やブックマークが大半だろう。指名検索からの直帰も含まれる。AI経由がどれだけ含まれているかは、標準機能では確かめようがない。分からない、というのが正確な答えである。
「4割が未対応」の読み方
アドビの調査では、EC各社の約4割がLLMのクローラーに未対応だという。この数字は「対応が遅れている」と読まれがちだ。
だが今回の作業を経て、別の読み方が浮かんだ。対応していないのではなく、対応する必要があるかどうかを判断する材料がないのではないか。
管理画面を開いてもAI経由という項目はない。売上への寄与も分からない。その状態で「AI検索に対応すべきだ」と言われても、優先順位を上げる根拠がない。当然、後回しになる。
先日、カラーミーショップがAI経由の流入と購入を無料で計測する機能を提供すると発表した。llms.txtの作成機能も併せて搭載するという。順序として、計測が先に来ているのは示唆的である。対策の前に、まず見えるようにする。
明日からできること
大がかりな投資は要らない。手を動かせる範囲で3つある。
1. GA4で参照元を分ける。 chatgpt.com、perplexity.ai、gemini.google.com、copilot.microsoft.com などをセグメントとして定義しておく。設定は数分で終わり、以降のデータが蓄積される。
2. 「参照元なし」の中身を疑う。 これまで再訪問者の箱として扱ってきた数字が、そうでない可能性を含む。月次の推移を見ておくだけでも、変化に気づける。
3. llms.txt を置く。 AIクローラーに向けてサイトの構造を機械可読な形で示すもので、静的なテキストファイル1枚である。効果が確立されているとは言えないが、コストはほぼゼロだ。
半年後に答え合わせをする
今回調べたのは1店舗にすぎない。業種は観葉植物のD2Cで、購入前にAIに相談する商材かと言われれば、そうとも限らない。他の業種では違う結果が出るだろう。
だからこそ、各社が自分の店舗で確かめる価値がある。「AI経由が伸びている」という業界全体の話と、自社の数字は別のものだ。
本紙は同じ店舗を定点観測し、半年後にもう一度この記事を書くつもりでいる。そのとき参照元の一覧にAIの名前が並んでいるのか、それとも今回と同じく1件も現れないのか。どちらであっても、記録しておく意味はある。
計測していなければ、答え合わせもできない。
利益相反の開示:本記事で分析したオンラインストア「SOCIAL PLANT WORKS」は、本紙の運営元であるLAMP株式会社が運営する自社ブランドです。本紙は編集方針に基づき、この関係が編集判断に影響しないよう努めています。データは加工せず、記録されたまま記載しました。
対象:SOCIAL PLANT WORKS オンラインストア(Shopify)
期間:2026年5月31日〜8月29日(90日間)
総セッション数:21,311
記録された参照元:64種類
取得方法:Shopify 標準のセッション分析(ShopifyQL)
実施:デジタル商業新聞編集部





